海の向こうにある一つの事実~知らなければ分からない世界
支援先の一つ、Tパエス小学校(マニラ市トンド地区バルット)のブルラン・カリダド先生が、同校の位置するマニラ市トンド地区バルット、スモーキーマウンテン地域の状況をリポートしてくださいました(2017年10月)。「知らなければ分からない世界」の一端に触れることのできる貴重な報告です。
この学校の児童のほとんどがマニラ市トンド地区にあるスモーキーマウンテンの団地に住んでいます。生活は大変ではあるものの、以前の生活ぶりと比較すれば、最近は向上してきていると思います。スモーキーマウンテンの団地は外観が同じなので人々の暮らしは一律に等しく見えます。
しかし私が一軒一軒家庭訪問をしてみると、皆さんが想像できないほど生活は苦しそうでした。実際に訪ねてみて、そこで暮らしている人たちと話してみなければ、多くの人たちが貧困にあえいでいることが分からないのです。どれほど大変なのかを、私たちはそこを訪ねて知ってみることが必要です。
私は団地の2階に住んでいますが、そこでも、食事に困り、生きていくのがやっとの人々がいます。学校に通ってくる子供たちの中には、制服は汚れ、白い襟は茶色になり、白い靴下が変色してしまっている子供も多く見かけます。昼休み、昼食を買うお金を持っていない子供たちがたくさんいます。私は教員として、時々彼らに食事を与えています。パンが6ペソ(約13円)、スープが4ペソ(約9円)です。このお金で一人の児童の十分な昼食が賄えます。
子供たちは、翌朝は授業があるので学校に行かなければなりませんし、よく眠れないためにいつも疲れています。ごみを一日中回収している父親は身なりがきれいではありませんし、不審者に見られやすいのです。しかし子供を連れていることで警察からどろぼうや不審者だと見られずに仕事ができるというわけです。つまり、子供も親を助けるためにハードワークが強いられるという状況に置かれています。
子供が自転車に付いている荷台の中で眠ってしまっているのを見かけますが、これは、団地ではなくそこが子供たちの小さな「家」になってしまっていることを示しています。団地に入居できたことは良いのですが、いったんは団地に住んだとしても、光熱費や家賃の支払いができず、元のごみ山に戻ってしまった人たちも多くいるのです。
スモーキーマウンテンの団地ができたことで人々の暮らしは良くなったと見られがちですが、実際はほとんどが貧しいままです。あなたが一軒一軒家庭を訪ねてみることで、どこの家庭がどの程度大変なのかという実情が分かってくるでしょう。経済的な援助が十分でないために、学校に通って来れなくなってしまう子供たちの数が増えています。
私が教員として見たときに、小学校1年で入学してくる児童が100人だとすると、その児童たちが2年生になると70人に減ってしまいます。教育が優先されていないというのが実情です。今日、ほとんどの奨学金制度の受給資格には優秀な成績や生活態度・学習態度が模範的であることが求められています。しかし、それらの評価が高くない子供たちはどうでしょうか? 人間の知能は遺伝的要素が影響することを科学は明らかにしていますが、私は食生活が子供たちの心の成長に大きな役割を果たしていることを確信しています。
スモーキーマウンテンの子供たちの食生活は、しょう油かけごはんや麺類がほとんどです。必要なビタミンをどこで取ることができるのでしょうか? 子供たちの精神を養う一つの要素は食事から摂る栄養素です。もしあなたが学校で空腹だとしたら、授業中、先生の話を集中して聞くことができません。空腹は最も苦痛なものです。
スモーキーマウンテンの地域の保護者たちは、貧困ゆえに子づくりにおいても計画性があまりありません。子だくさんになれば、その分、養わなければならない家族が増えます。生きていくために子供たちの教育が二の次になってしまうのです。私の家庭も父が半身不随になってしまい働けなくなりました。それからは母親が父親に代わって、昼夜を問わず、私たちを卒業させるために一生懸命働いてくれました。